フィンランド南東部からロシア北西部にまたがる地域 カレリア。その国境はたびたび歴史の中で移り変わってきた。
ロシア連邦カレリア共和国の国歌で歌われるように「(民族叙事詩『カレワラ』が代表するような)伝統詩歌と、(ロシア英雄叙事詩)ブィリーナの生き生きとした音」が響く地であり、古の伝統文化を遺す地としてロシア、フィンランド両国で民俗学者たちの関心を引いてきた。カレリアで採取された民間伝承は叙事詩、泣き歌、まじない、ことわざ、なぞなぞ、おとぎ話等、多岐にわたる。

3作から成るこの短編映画シリーズでは、カレリアの文化と伝統における通過儀礼、およびその中で行われる号泣、いわゆる「泣き歌」の重要性と、儀式において女性がはたす役割に焦点をあてる。 第1作目『VENEH(小舟)』(2016)では1900年代初頭 の架空の村を舞台に、花嫁の視点から伝統的な「嘆きの婚礼」を描く。第2作目『LINDU(小鳥)』(2021)では1960年代における葬礼を扱うが、映し出される各儀式にはソビエト時代・社会主義の影響が色濃く表れている。2023年公開予定の最終作『ILMU(カレリア語で「大気、空気」の意)』では、新たな生命をその身に宿す現代女性がヒロインである。 それぞれ独立した作品ではあるが、伝統を新たな形で継承していく女たちの姿を時代の変遷とともに追うことで、カレリア人の民族文化が決して過去のものではないとシリーズを通じて訴えているかのようである。
各映画のナレーションはカレリア語リッヴィ ( オロネツ)方言で語られている。作中で紹介される民謡や泣き歌もカレリア語各方言であり、全編をとおしてカレリア語が用いられている世界初めての映画作品でもある。

本カレリア語映画 3部作の制作プロジェクトは、カレリア語ならびに文化への関心を高めることを目的とした非営利の活動である。資金はすべて目的に賛同する企業や団体、あるいはクラウドファンディングによる一般市民からの支援による。フィンランド各地での上映を終えた後は、インターネット上で無料公開されることになっており、1作目『VENEH(小舟)』は既にフィンランド語・英語字幕版が自由に視聴可能である。

フィンランド国内にはカレリア語を母語とする人が約1万人、教育等により理解する人が約2万人いるとされている。2009年11月、カレリア語はヨーロッパ地域言語またはマイノリティ言語憲章で保護される言語のリストに追加され、当時のタルヤ・ハロネン大統領がフィンランドの「特定の地域を持たない少数言語」と公認した。さらに2022年6月にはフィンランド内国語センターが、カレリア語を「フィンランドに古くから存在する少数言語」であるとようやく認めたが、他の内国語のような母語話者が享受すべき権利は未だ規定されていない。
いっぽうロシアにおいてもカレリア語話者数の減少は切実な問題である。2010年の国勢調査によれば、ロシア全土におけるカレリア人人口はおよそ6万人、うちカレリア語話者数はおよそ2万5600人である。それぞれの地域で独自の方言を発達させてきたカレリア語には、標準語は存在しない。それでも多くの研究者たちの努力によって主要方言の文字・文法体系が確立され、初等教育にも力を注いできた。それでも話者数は年々減少の一途をたどっている。

こうした中、本プロジェクトをはじめ、カレリア語や自身のカレリア民族性を主張する声が、若い世代を中心に見受けられるようになったことは新たな可能性を感じさせてくれる。作品に触れることで、フィンランド人でもなく、ロシア人でもなく、カレリア人として生きる人々の今後に目を向けるきっかけになれば幸いである。

カレリア映画プロジェクトWEBサイト [フィンランド語/英語/日本語]

カレリアとカレリア語

VENEH 小舟

LINDU 小鳥

シリーズ最終作『ILMU』

カレリア語映画プロジェクトについて

ユルキ・ハーパラにより教育・振興目的で企画・制作されているカレリアの伝統的な通過儀礼をテーマとした3部作の短編映画作成プロジェクト。非営利活動であり、資金はすべて目的に賛同する企業や団体、あるいはクラウドファンディングによる一般市民からの支援による。1作目『VENEH (小舟)』は、全編にわたりカレリア語で制作された初めての映画でもある。1作目『VENEH(小舟)』では婚姻、2作目『LINDU(小鳥)』では死、3作目では誕生をテーマとし、映画は各地イベントやフェスティバルでの上映を終えた後、インターネット上で無料公開される。

フィンランド国内にはカレリア語を母語とする人が約1万人、教育等により理解する人が約2万人いるとされている。2009 年、カレリア語はヨーロッパ地域言語またはマイノリティ言語憲章で保護される言語のリストに追加され、当時の大統領タルヤ・ハロネン氏はフィンランドの「特定の地域を持たない少数言語」とする法令に署名したが、例えばサーミ人が享受している母語で教育を受ける権利は、カレリア人にはまだ与えられていない。本プロジェクトはカレリア語ならびに文化への関心を高めることを目的としている。

監督・脚本:ユルキ・ハーパラ(Jyrki Haapala)

アートダンスパフォーマー、振付師、ダンス講師、短編映画監督。
フィンラド・シアターアカデミー修了。アートダンスパフォーマー、振付師としてフィンランド国内外で活動し、多くのプロジェクトに参加。カレリア共和国の若手アーティスト育成プロジェクトのプロジェクトマネージャーとしてカレリアの芸術家育成に尽力。
1990年代からカレリア文化、カレリアでの文化教育発展に尽力しており、自身もフィンランドの北カレリア地方にルーツをもつことから本プロジェクトを立上げ、監督・脚本の他、自身で俳優も務めている。

日本での上映に関して

2022年11月(東京)を皮切りに、『VENEH(小舟)』、『LINDU(小鳥)』2作品の日本語字幕版上映イベントを大阪、札幌他で開催予定。入場料や物販の売上は、3作目『ILMU』制作のための支援にあてる。最終的にはシリーズ全作品の日本語字幕版上映を目指 し、フィンランドのプロジェクトチームと情報連携している。映画の上映(解説・講演可) にご興味がある方、ご協力頂ける方は問合せフォームよりご連絡せ下さい。

プロジェクトのオフィシャルWEB(フィンランド語/英語/日本語)では、プロジェクトや各映画についての情報の他、制作支援の呼びかけも行っている。最終作『ILMU』のクラウドファンディングは2022年9月末をもって終了したが、オンラインショップでのオリジナルグッズ購入で応援することも可能である。

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